Wednesday 22 March 2017

小さなツアー、フランス/ベルギー

2本のドキュメンタリー映画の上映会のために、フランスのパリとリール、そしてベルギーのヘントを回りました。2本というのは畠山容平監督の『未来をなぞる』と河合宏樹監督の『ほんとうのうた』。前者は世界的写真家・畠山直哉の震災後の動きを追うもの、そして後者は小説家の古川日出男らとぼくが行った朗読劇『銀河鉄道の夜』全国ツアーを追うものです。

「2本の共通点は?」というと、それはぼくが出演していること! まあ、それはどうでもいいのですが、震災後の日本のアーティストたちの動揺と迷いと戦いを、どちらも描いたものだといえそうです。

今回の上映は、リール在住の杉江扶美子さんとモルガン・フランソワさんが『ほんとうのうた』にフランス語字幕をつけてくださったことがきっかけとなって企画されました。 この映画はすでにダグ・スレイメイカーさんによる英語字幕があり、それはケンタッキー劇場をはじめアメリカの数カ所で上映されていますが、フランス語圏ではもちろん初めて。一方の『未来をなぞる』のほうは、写真家の畠山さんがリール周辺と縁が深いこともあって(彼はこの地方の炭鉱のぼた山の壮絶に美しい写真集を出しています)、一種の共演のようにして、今回の上映が実現することとなりました。

まずパリではINALCO(国立東洋語・文明学院)で、 15日に『未来をなぞる』、16日に『ほんとうのうた』を上映。ぼくは前者では上映後の質疑応答、後者では上映前のイントロと上映後の質疑応答をこなしました。ついでリールでは、外国語書籍専門店V.Oの地下室で、17日に『ほんとうのうた』、18日に『未来をなぞる」。さらに20日にはヘント大学に場を移し、『ほんとうのうた』の英語字幕版を上映しました。いずれも活発な質問があり、みなさんが熱心に見てくれたことがはっきりとわかる、いい上映会になりました。

改めていうまでもなく、こうしたすべては6年前の東日本大震災をきっかけとしてそれぞれの人生に生じた、新たな苦闘と模索を反映しています。簡単に結論づけられることは何もありませんが、問いはつねに新たに、そして何度でもよみがえりつつ、私たちにむかってきます。

いまも終息にはほど遠い福島第一原子力発電所の状況をはじめ、あの日はっきりと変わった日本社会は、いよいよその亀裂と苦悩を深くしています。出口はどこにも見えません。

もう一度あの日に戻り、すべてを考え直しましょう。物質的にも精神的にも、われわれはどんな社会を望んでいるのか。そのかたちは、世界の他の地域、他の国々の人々との対話により、しだいにはっきりしてきます。 そんな対話の材料を、これらのドキュメンタリーが提供できるように、ぼくには思えます。

お世話になった杉江さん、フランソワさん、お招きいただいたパリのアンヌ坂井先生、ヘントのアンドレアス・ニーハウス先生、ミック・デネッケー先生、ほんとうにありがとうございました!