Monday 28 May 2012

忘れていたこと

そのシンポジウムの質問時間、山本洋平さんが「どんな交通機関を使うかによってアメリカの移動・旅の経験も意識もまったくちがうものになるのではないか」という質問をくれました。

現在、われわれのほとんどは、航空機と車によって北米大陸を経験します。しかも車の移動といっても、インターステイト中心の走行と、田舎の未舗装の道を走るのでは、まったくちがった経験になります。自分で運転する車と、グレイハウンドのバスとでは、おなじ道も別の道。

歩くための土地としての北アメリカはすばらしいけれど、あまりに広大すぎてわれわれはどこにもたどりつけないでしょう。

それはともかく。乗り物という観点からして、過去100年ほどのあいだに世界中でもっとも失われてしまったものは何かと帰り道で考えていて、ふと思いつきました。それはロバ!

かつては世界中で山道を歩き、人を乗せ、荷物を運んでいたこの愛らしい動物が、いわゆる先進国では、どこにいってもほとんど姿を見ることができなくなりました。アメリカ合衆国にそれほどロバが根づいていたかどうかはわかりませんけれど(ロバよりはラバか)、メキシコでは人々の想像力の中にまだまだロバは根強く残っているし、それはそれだけ実際に飼われていたということ。

ごく狭い土地でも飼えるという、この馬と犬の中間に位置するような動物を、いつか自分で飼ってみたい、車代わりに!

ちょっと失敗!

日曜日、英文学会。専修大学生田キャンパスにて。ぼくは山里勝己さんのお誘いで、シンポジウム「旅と移動のアメリカ文学」に参加しました。

ところが、小倉いずみさん、竹内勝徳さん、笹田直人さんの重厚できわめて刺激的な発表のあと、ぼくの話はどうにも失敗でした。折角用意したハンドアウトから離れてしまい、無用の脱線ののち道も港も見失って、どこにも帰ってくることができませんでした。

扱うつもりだったのは、エル・パソ出身のチカーノ詩人、レイ・ゴンサレスの自伝。ところがまるで無関係な話から始めたせいで、要点の半分もふれられませんでした。反省しています。

思ったのは、鉄則として、最大でも20人程度で小さな部屋でやるときには、その場の反応に合わせながら<語り>で作ってゆくのがいい。しかし数十名規模で大きな教室でやるときには、やはり完成原稿を読み上げるスタイルにしないと、自分が迷子になってしまう。

今後の課題です。ちなみに発表タイトルは「沙漠、石、ロザリオ レイ・ゴンサレスの自伝と詩」でした。


5月21日、福島

東北ツアーの最終日は21日(月)の福島でした。福島市音楽堂小ホール。そしてこれまでのすべての回を凌駕するといっていい、炎の舞台となりました。

福島県でも郡山出身の古川日出男さんが、郡山弁で福島市のみなさんに語りかける。そのときの熱は、そばで聞いているぼくらが火傷を心配するほど。柴田元幸さんのユーモラスな鳥獲りもすっかり板につき、笑いを誘っていました。

東京からわざわざ見に来てくれた人も数人。終了後は、地元福島の詩人、和合亮一さんを交えての座談会に。今後の活動を話し合う、得難い機会でした。

次は秋。岩手県住田町を除いては、まだ本決まりのところはありません。でも傷つけられた土地をはじめとする、それぞれの場所で、それぞれに多様な観客のみなさんに見ていただき、情感の或る部分を交換するという方針は変わりません。

またどこかで会いましょう。柴田さんも都合がつくかぎり、今後も参加してくださるはずです。秋にはメキシコ公演を実現したいと思っています。

Saturday 26 May 2012

タブッキ追悼朗読会報告

金曜日の夜、荻窪の六次元で。田口ランディさんが報告を書いてくださいました。イタリア語とポルトガル語の響きも混じり、ふんわりと楽しいひとときでした!

http://runday.exblog.jp/

Friday 25 May 2012

アントニオ・タブッキ追悼朗読会

明日、25日(金)。以下のイベントに参加します。田口ランディさんも!

http://tabucchi2012.hatenablog.com/

お近くの方は、ぜひどうぞ。

なお、『銀河鉄道の夜』東北ツアーの報告は、近いうちに。

Monday 21 May 2012

大船渡の夜に

18日(金)夜の大船渡の永沢仮設住宅での出張朗読会のようすです。

http://www.iwate-np.co.jp/hisaichi/y2012/m05/h1205201.html

いつかまた再訪したいと思います!

せんだい終了

昨日(土曜日)の大船渡リアスホールにつづいて、今日(日曜日)は青葉祭りの仙台、せんだいメディアテークで公演を行いました。

今回のツアーの第4の男である柴田元幸さんに加えて、きょう一日の参加者として音楽批評の小沼純一さん登場。一日ごとにスタイルを変えてゆくこのフォーク・オペラ(?)に、いちだんとひねりを加えてくれました。

明日は福島。明日も別のかたちでやります!

読売書評 #9

5月20日掲載。リービ英雄『大陸へ』(岩波書店)。

中国および祖国アメリカというふたつの大陸国家への旅をくりかえし、その旅を日本語で書く著者の新しい紀行文集。絶対に他の誰も試みたことすらないかたちで、深く新鮮な省察を書きつけてゆく。偉大な本です。

Saturday 19 May 2012

本日初日です!

 明治大学新領域創造専攻・管啓次郎研究室では、小説家・古川日出男および音楽家・小島ケイタニーラブとの共同プロジェクトとして、宮澤賢治原作による朗読劇『銀河鉄道の夜』を以下の日程で上演します。

  5月19日(土)14:00開演 大船渡リアスホール・マルチスペース 
  5月20日(日)18:00開演 せんだいメディアテーク 
  5月21日(月)18:00開演 福島市音楽堂小ホール

 いずれも上演時間は第1部(宮澤賢治作品を中心とする朗読)、第2部(『銀河鉄道の夜』)を合わせて約2時間。

 大船渡は入場無料、仙台は入場料1000円、福島は入場料1000円(18歳以下500円)です。ツアーの全体が、東北被災地に対するチャリティー企画として構想されています。

出演 古川日出男(脚本も)、小島ケイタニーラブ(音楽も)、管啓次郎(劇中詩も)
特別ゲスト 柴田元幸(翻訳家、東京大学教授)=大船渡、仙台、福島
        小沼純一(批評家、早稲田大学教授)=仙台
主催 明治大学理工学研究科新領域創造専攻・管啓次郎研究室
協賛 明治大学震災復興支援センター
後援 大船渡市、岩手県教育委員会、仙台市、IBC岩手放送
協力 株式会社朝日出版社、株式会社勁草書房、左右社、認定NPO法人国境なき子どもたち

 公演情報・チケット予約などの詳細は、以下の専用サイトの「運営・問い合わせ」からどうぞ。

  http://milkyway-railway.tumblr.com/

Friday 18 May 2012

大船渡から

いよいよ朗読劇『銀河鉄道の夜』東北ツアーに出ました。今日は陸前高田の、取り壊しが決まっている体育館を見て、しばし呆然。沈黙。黙祷。それから大船渡へ。

夜は大船渡の仮設住宅集会所での出張朗読会、それから宿に戻って明日の台本の読み合わせをしました。

今回のツアーでは、古川・小島・管に加えて、第4の男として、柴田元幸さんが「翻訳家」「鳥を捕る人」の二役で登場します! もちろん台本も演出も大幅に変更。こうして芝居自体が成長を続けます。

東京をはじめ遠方から観にきてくださる方もかなりいます。この土・日・月、ぜひいらしてください。

Monday 14 May 2012

読売書評 #8

5月13日掲載。須賀丈・岡本透・丑丸敦史『草地と日本人』(築地書館)の小評。

この100年の日本に起きた最大の喪失、それは草地の喪失。ほとんどすべての人が忘れていることです。衝撃を受けました。

中之島にて

国立国際美術館でのシンポジウム「写真の誘惑 視線の行方」終了しました。土、日の2日間、4つのセッション。いずれも大変に充実した内容で、楽しめました。

ぼくは最後の総合討議に参加。加治屋健司さん、佐藤守弘さんと。司会進行は竹内万里子さん。写真をめぐる議論は写真そのものの多様性に見合ってあらゆる方向にひろがっていきますが、ある種の熱を最後まで維持して、しめくくることができたように思います。

ぼくは新しいシリーズ「時制論」から16行詩3つを朗読。

大阪は最高。特に中之島、堂島から福島のあたり、ほんとうにいい街です。その福島には、また近いうちに戻ってくるかも。写真との関係は近づいたり離れたりですが、これからもっと真剣にとりくみたいと思っています。

Thursday 10 May 2012

明治大学大学院研究科合同進学相談会

5月12日(土)、13:00〜16:00、お茶の水の明治大学アカデミーコモン2階会議室にて。進学を考えているみなさん、ぜひどうぞ!

あいにくぼくはいませんけれど、「理工学研究科新領域創造専攻」の者が必ず誰かいます。気軽に相談してみてください。

よろしく!

Monday 7 May 2012

サンドラ・シスネロスの詩


「東京からす、ばんざい」
サンドラ・シスネロス(訳=管啓次郎)

ばんざい、ギャングからすたち
ようが、よよぎの
しんじゅく、しぶやの
あかさか、なかおかちまちの
たつみ、たかだのばばの
せんだぎ、あけぼのばしの

ばんざい、ギャングからすたち
一羽で、集団で、
ゴミ袋を花嫁のヴェールみたいにふわり
譲れない合言葉は
なんだってあり、さ


12年4月15日、東京
12年4月19日、テクサス州サン・アントニオ

©2012 by Sandra Cisneros, translation © 2012 by Keijiro Suga, all rights reserved

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先月、東京でサンドラ・シスネロスに会うことができました。現代チカーナの代表的作家、この25年ぼくが愛しつづけてきた小説家です。サンドラは東京のカラスを題材にした詩を、われわれに贈ってくれました。おなじ詩の翻訳競作を、サンドラの2冊の本の日本語訳者であるくぼたのぞみさんと試みたのが、これ。

くぼたさんの訳詩は、以下にあります。楽しい! 原文もそちらからどうぞ!


http://esperanzasroom.blogspot.jp/


Sunday 6 May 2012

Supermoon

昨晩はスーパームーンでした。去年書いた「非在の波」連作の中のスーパームーンの詩(『島の水、島の火』所収)を南映子さんがスペイン語に訳してくれました。ありがとう、南さん!



Papá, ves que la luna, le susurré yo
La luna era tan grande y clara que no haya visto nunca
“La luna es el alma del sol”, decías tú alguna vez
La luz carecía de temperatura
Y el color era blanco como el blanco del ojo de un perro negro
Bailé bajo la luz de esa luna
Saeko, Sakura y yo bailamos con toda fuerza, como si fuéramos sombras
“Sabes, en una tribu de American Indian
para celebrar alguna ceremonia religiosa
hasta que todos los asistentes rían desde el fondo del corazón
la ceremonia no empieza”
Papá, nos descalzamos nosotras tres
Nos tomamos por las manos, reímos, y luego bailamos
Entonces, la luna pareció reír plenamente
Supermoon, las fotografías ensuciadas que nos han dejado las olas
Empiezan a resplandecer todas juntas

読売書評 #7

5月6日掲載。いつもより大きな枠を使わせてもらい、『パウル・ツェラン全詩集』(中村朝子訳、青土社)とチャールズ・オルソン『マクシマス詩篇』(平野順雄訳、南雲堂)を論じました。

どちらもすばらしい、すばらしい作品(群)です。そしてそれぞれの訳者の驚異的な労力と意志に、脱帽。みごとな翻訳。

みんな一度は、それらを読むためだけに図書館に出かけよう!

サハラ砂漠

「サハラ砂漠は、見渡すかぎり一様な砂しか見せてはくれない。もっと正確に言えば、砂丘は数少ないから、小石まじりの砂州のようなものしか見せてはくれない。そこではたえず、倦怠の諸条件そのもののなかに浸されてしまう。ところが、眼に見えない神々が、方向と傾斜と予兆との網目、秘かな生きた筋肉組織をつくりあげているのだ。もはや一様性などは存在しない。すべてが方向づけられている。一つの沈黙ですら他の一般の沈黙とは似ていないのである。」

サン=テグジュペリ『ある人質への手紙』(山崎庸一郎訳、みすず書房、168ページ)

食のエネルゴロジー

明治関係者限定ですが、以下の研究会がはじまります。5月7日は中村和恵さん、そしてぼくがお手伝い。

学生のみんなはぜひいらっしゃい!

http://www.meiji.ac.jp/osri/topics/2012/6t5h7p00000bl42q.html

ImaginAsia 2012

The ImaginAsia International Conference and Workshop will be held for the fourth time this year and will be hosted by the Graduate Program in  Digital Content Studies, Meiji University. The conference, which is to be held in Aomori, Japan this year, will continue to bring together digital media research faculty and students from all over Asia for cultural, academic and creative exchange. The participating teams will share research  findings, engage in cultural discussion and produce digital media creative content based on the subject: Nature and Art.

Asia is a multiple space full of rich and diverse natural habitat, where the fusion of different cultures and values occurs. However, the flooding in Thailand, the earthquakes in Japan and India last year, and other natural disasters force us to reflect on how our “Art” cultures, built on the foundation of  “Nature”, can evolve to adopt a whole new face amidst these problems. Hence, the subject this year.

The concept of ImaginAsia was formed in spring 2009, and it was launched in autumn the same year. The inaugural project was held collaboratively by the faculty members and students from the College of Communication, National Cheng-chi University (NCCU), Taiwan; School of Cinematic Arts, University of Southern California (USC), U.S.A. and the Graduate Institute of Digital Contents, Meiji University, Japan. Since Spring 2010, Faculty of Fine and Applied Art, Chulalongkorn University, Thailand and School of Communication, Hong Kong Baptist University came on board.

Saturday 5 May 2012

おめでとう、細見和之さん!

ちょっと報告が遅くなり、ごめんなさい。『ろうそくの炎がささやく言葉』の執筆者のひとりである細見和之さんが、詩集『家族の午後』(澪標)により第7回三好達治賞を受賞されました。

平易な言葉で、深く胸をつく詩集です。おめでとうございます!

Friday 4 May 2012

おめでとう、岬多可子さん!


『ろうそくの炎がささやく言葉』の執筆者のひとりである岬多可子さんが詩集『静かに、毀れている庭』で第4回・小野市詩歌文学賞(詩部門)を受賞されました。

授賞式は6月2日、小野市うるおい交流館エクラにて。

岬さん、おめでとうございます! 本当にすばらしい詩集でした。

Wednesday 2 May 2012

福島市音楽堂で

21日(月)の朗読劇『銀河鉄道の夜』の福島公演、会場の福島市音楽堂でもチケット販売が始まりました。

福島地方のみなさん、ぜひ見にきてください!

福島地方にお知り合いのいるみなさん、ぜひ勧めてあげてください!

Tuesday 1 May 2012

「水牛のように」5月号

ウェブジン「水牛のように」更新されました。ぼくは「犬狼詩集」のための16行詩を、今月はなんと一挙に6片! しかも新しい連作です。うち最初の4片を、日曜日の明治大学でのシンポジウム「詩は何を語るのか」で朗読しました。

ぜひ読んでみてください!

朗読ゼミ

総合文化ゼミナールの「朗読」クラス。ちょっとエンジンがかかってきました。きょうは『ろうそくの炎がささやく言葉』の中から、新井高子さんの「片方の靴」を熟読し、議論。

片方だけ残った泥まみれの靴に溜まった水が、人の瞳にも井戸にも海にも通じ、さまざまなスケールが同時に描きこまれます。痛切な悲哀。最後の1行「這って、」に、改めて言葉を失いました。

震災後に、津波そのものを主題として書かれた詩の最高傑作ではないかと思います。たぶん50年後に残るのは、これ。みなさん、ぜひ読んでみてください。

学生のみんなとは4回、5回と、この作品を輪読しました。声により内面化し、それをふたたび外部世界に投射する。自分の生き方への問いとして投射する。

こんな感じで、これからも進めていこうと思います。

昨日、そして、これから

昨日のシンポジウム+朗読会「詩は何を語るのか」は、75名ほどの聴衆のみなさんとともに、きわめて充実したひとときを過ごすことができました。実際、詩のイベントで、これだけの強度と内容があるものは、そうはないと思います。新井高子さん、中村和恵さん、山崎佳代子さんという3人の尊敬する詩人、そしておよばずながらぼくを含めて、まったくタイプのちがう4人がつむいだ言葉と声のひろがりが、何か新たな(再)出発を思わせる一日になりました。

詩はおもしろい。詩を読もう。そんな気分に貢献できたなら、主催者としてはこの上なく報われたということになるでしょう。