Thursday 22 January 2009

サイエンス・ライターと人類学者

建築や物理や機械といった学科の同僚たちとのミーティングで、理工学部をより魅力的な場所にするために必要なことについての意見を求められた。ぼくの答えは、次の二つ。

(1)サイエンス・ライティングを必修にする。そのために、サイエンス・ライターをひとり専任として雇う。
(2)人類学者をひとり雇う。学部のプロジェクトとして、理工学部のエスノグラフィーを書いてもらう。

冗談のつもりは、まったくない。(1)では、科学の各分野がやっていることをよく理解し、研究の前線のおもしろい話題を誰でも共有できる言葉で書く練習をする。学生たちにしてみれば、自分の学科が知の全般的な地形の中のどこでどんな活動をしていて、それがどんな風に社会に関わっていくのかを説明できるようにするのは、自己認識のためにも未来への指針としても、非常に役に立つ。おまけに、日本語作文に関する訓練としても最適。

(2)はきっとおもしろいと思う。明治の理工でも150名の大所帯、分野は千差万別だし、研究室ごとのエートスもぜんぜんちがう。ひとつの私大の理工学部に、はたしてどれくらいの知的資源があるのか。お金はどう流れ、どんな成果が発表されてゆくのか。博士論文か単行本の2つや3つは、これを素材にして書ける。そして学部としてはこの人類学者を一種のコミュニケーターとして特任教授の枠で雇い、その間、授業はもたなくていいことにして代わりに毎週、理工学部の研究活動を広報してもらう。いい投資だと思うが、どうだろう。

サイエンス・ライティングのことは前から考えていて、それでこないだは台北にも行ったし、今年の新学年の総合文化ゼミのひとつはその方向(もっとも読むだけ)。そしたらおりしも、いま発売中の「中央公論」が大学の理工教育の危機みたいな特集を組んでいて、物理学者でサイエンス・ライターの竹内薫さんが寄稿していた。たとえば竹内さんのような人を「物理学科」ではなく「総合文化教室」の同僚に迎えることができるなら、理工学部はその分だけ確実におもしろくなるはず。

DC系を志望するみなさん、たとえば「サイエンス・ライティングの研究」や「理工学部のエスノグラフィー」は、立派な大学院の研究主題になります。興味がある人は、真剣に考えてみてください。